薄毛治療といえば、飲み薬や塗り薬、あるいは植毛といった物理的な処置を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし近年、薬剤を使わない「光治療」が世界的に注目を集め、日本でも皮膚科学会のガイドラインで推奨度が引き上げられるなど、その地位を確立しつつあります。それが、赤色LED(発光ダイオード)を用いた低出力レーザー治療(LLLT)です。「ただの光を当てるだけで髪が生えるなんて怪しい」と感じる方もいるかもしれませんが、これにはしっかりとした科学的根拠(エビデンス)が存在します。赤色LED、特に波長六三〇ナノメートルから六六〇ナノメートル付近の光は、皮膚の深達度が高く、毛根の奥にある毛乳頭細胞まで届く性質を持っています。この光が毛乳頭細胞に到達すると、細胞内のミトコンドリアが刺激され、エネルギー産生が活発化します。これはいわば、電池切れの携帯電話を充電するようなものです。活性化した毛乳頭細胞からは、髪の成長を促す増殖因子が多く分泌されるようになり、休止期にあった毛母細胞が再び分裂を開始し、太く長い髪が作られるようになるのです。このメカニズムは、創傷治癒(傷の治り)を早める研究から派生したものであり、副作用が極めて少ないのが最大の特徴です。薬のように肝臓への負担や、性機能障害といった全身性の副作用を心配する必要がありません。最新の事情としては、クリニックで行う大型機器による照射だけでなく、家庭用のヘルメット型やキャップ型のLED照射器が進化し、医療機器としての承認を得た製品も登場しています。これにより、通院の手間なく、自宅で毎日ケアを行うことが可能になりました。かつては高額な機器が必要でしたが、LED技術の進歩により、一般消費者でも手の届く価格帯のデバイスが増えています。また、AGA(男性型脱毛症)だけでなく、女性の薄毛にも効果が認められている点も重要です。女性は妊娠中や授乳中など、薬剤の使用が制限される期間があるため、副作用のないLED治療は非常に相性の良い選択肢となります。ただし、LED治療は即効性のある魔法ではありません。薬物療法と同様に、効果を実感するまでには半年以上の継続が必要です。また、すでに毛根が完全に死滅してしまっている部位(ツルツルの状態)から髪を生やす力までは期待できません。あくまで、細くなった髪を太くする、抜け毛を減らして密度を高めるといった効果がメインとなります。そのため、現在の最新治療のトレンドとしては、LED単体で行うのではなく、ミノキシジルなどの外用薬や内服薬と併用する「コンビネーション治療」の一環として取り入れられることが一般的です。内側からは薬で、外側からは光で刺激を与えることで、相乗効果を狙うのです。痛くない、熱くない、副作用がない。この三拍子が揃ったLED治療は、薬に抵抗がある人や、既存の治療にプラスアルファの効果を求める人にとって、有力な選択肢となっています。光の力が、眠れる獅子ならぬ眠れる毛根を呼び覚ます鍵となるかもしれません。
LED照射が毛根を目覚めさせる科学的根拠と最新事情