AGA治療中に円形脱毛症が発症した場合、それはAGA治療とは別の、独立した疾患が新たに発生したと考えます。AGA治療薬が、直接的に円形脱毛症を引き起こすという医学的なエビデンスはありません。むしろ、AGAが進行し、薄毛が目立ってきたこと自体が精神的なストレスとなり、それが引き金となって、もともと持っていた円形脱毛症の素因が現れた、と考える方が自然です。では、このような場合、治療はどのように進めていくべきなのでしょうか。まず、最も重要なのは、自己判断でAGA治療を中断しないことです。AGA治療を中断すれば、円形脱毛症とは別に、AGAは再び進行を始めてしまいます。せっかくこれまで続けてきた努力が、水の泡になってしまうのです。そして、速やかに「皮膚科」を受診してください。AGA専門クリニックに通っている場合でも、円形脱毛症の治療経験が豊富な皮膚科医の診察を、セカンドオピニオンとして受けることが賢明です。皮膚科医は、脱毛斑の状態を正確に診断し、円形脱毛症に対する治療を開始します。治療の基本は、免疫の異常な働きを抑えるための「ステロイド外用薬」の塗布です。症状が強い場合や、範囲が広い場合には、「ステロイド局所注射」や「抗アレルギー薬の内服」、「液体窒素療法」などが選択されることもあります。そして、AGA治療と円形脱毛症の治療は、原則として「並行して」行います。AGA治療薬であるフィナステリドやデュタステリドの内服は、円形脱毛症の治療に影響を及ぼさないため、そのまま継続するのが一般的です。ただし、ミノキシジル外用薬については、注意が必要です。円形脱毛症の脱毛斑は、炎症を起こしている場合があるため、そこにミノキシジルを塗布すると、刺激で炎症が悪化する可能性があります。医師の指示に従い、脱毛斑の部分だけは塗布を避ける、あるいは、円形脱毛症の治療が落ち着くまで、一時的にミノキシジルの使用を休止する、といった判断が必要になる場合があります。二つの異なる敵と同時に戦う、困難な状況ではありますが、それぞれの専門家である医師の指示を信じ、冷静に治療を続けることが、両方の問題を克服するための唯一の道です。