投稿者: o6jhnj
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彼の髪色が明るくなるほど私の心は不安になった
彼が初めてブリーチをしたのは、大学を卒業してすぐのことだった。社会人になる前の最後の冒険だと言って、彼は黒かった髪を眩しいほどの金髪に変えた。鏡の前で得意げに笑う彼を見て、私も素直に「似合うね」と言った。けれど、心のどこかで小さな棘が刺さったような、奇妙な感覚があったことを覚えている。それからだった。彼の髪色は、まるで季節が移ろうように変わっていった。アッシュ、シルバー、そして淡いピンク。美容室から帰ってくるたびに、彼の印象はがらりと変わり、私は新しい彼に出会うような新鮮な気持ちになった。しかし、その一方で、私の不安は彼の髪色が明るくなるのに比例して、どんどん濃くなっていった。シャワーの後の排水溝に、以前より多くの髪が絡まっているのを見つけた時。彼が何気なく「最近、髪が切れやすくて」とこぼした時。そして、太陽の光の下で、彼の頭頂部の地肌が前よりも透けて見えることに気づいてしまった時。私の心臓は、どきり、と嫌な音を立てた。「ブリーチ、やりすぎるとはげるって言うよ」。ある日、私は思い切ってそう言ってみた。彼は「大丈夫だよ、ちゃんとケアしてるから」と笑ったけれど、その笑顔は少しだけ、こわばっているように見えた。私は、彼がおしゃれを楽しむことを止めたいわけじゃない。ただ、その代償として、彼が髪を失ってしまう未来を想像すると、たまらなく怖くなるのだ。彼の若さや自信が、その明るい髪色に象徴されているように感じると同時に、その髪の毛一本一本が、彼の未来を少しずつ削り取っているような気さえしてしまう。私はただ、ずっと先の未来も、隣で笑う彼の髪を、優しく撫でていたいだけなのだ。その願いが、過剰な心配だと言われても、私の不安が消えることはなかった。