二年前の僕は、鏡を見るのが憂鬱だった。M字に切れ込んできた生え際と、光に透ける頭頂部。まだ28歳。同年代の友人たちのフサフサとした髪が、妬ましくて仕方がなかった。育毛剤、頭皮マッサージ、高価なシャンプー。色々試したが、気休めにもならなかった。最後の望みを託して訪れたクリニックで、僕はフィナステリドという薬に出会った。医師は言った。「まずは、これだけで半年続けてみましょう。焦らないことが大事です」。正直、半信半疑だった。たった一錠の薬で、この長年の悩みが解決するとは思えなかった。服用を始めて三ヶ月。期待していたような劇的な変化はない。相変わらず抜け毛は気になるし、鏡の中の自分も昨日と変わらない。何度も「もうやめようか」と思った。しかし、そのたびに医師の「焦らないで」という言葉を思い出し、歯を食いしばって飲み続けた。変化の兆しに気づいたのは、半年が過ぎた頃だった。朝、枕元に落ちている髪の毛の本数が、明らかに減っている。シャンプーの時に指に絡まる毛も少なくなった。それは、他人には分からない、自分だけの小さな変化。でも、僕にとっては、暗闇の中に差し込んだ一筋の光だった。その小さな光を頼りに、僕は服用を続けた。一年が経つ頃には、髪全体にコシが出て、一本一本が強くなったように感じた。スタイリングが、以前より少しだけ決まるようになった。そして二年が経った今。僕の髪は、二年前とは見違えるほどではないかもしれない。けれど、薄毛の進行は確実に止まっている。むしろ、頭頂部の地肌の透け感は、少し改善したようにさえ思う。何よりも変わったのは、僕の心だ。「対策をしている」という自信が、鏡を見る憂鬱さから僕を解放してくれた。フィナステリドのみの治療は、派手なホームランじゃない。でも、着実に塁を進める、信頼できるバントのようなものだ。僕はこれからも、この小さな一錠を信じて、自分の未来を守っていこうと思う。
僕がフィナステリド単剤治療を信じて二年続けた結果