薄毛治療を検討する上で、避けては通れないのが「費用」の問題です。そして、AGAと円形脱毛症では、治療にかかる費用と、その負担を軽減する公的医療保険の適用について、天と地ほどの大きな違いがあります。この金銭的な側面の違いを理解しておくことは、治療計画を立てる上で非常に重要です。まず、「AGA(男性型脱毛症)」の治療は、原則として「保険適用外」の「自由診療」となります。日本の医療制度において、AGAは「生命に直接関わる疾患」とは見なされず、容姿の改善を目的とした美容医療の一環として位置づけられているためです。自由診療であるため、治療にかかる費用は全額自己負担となります。また、クリニックが独自に料金を設定できるため、同じ薬でもクリニックによって価格が大きく異なります。例えば、内服薬であるフィナステリドのジェネリックであれば月々数千円から、ミノキシジル外用薬や複数の治療を組み合わせると、月々数万円の費用がかかります。当然、高額な医療費の負担を軽減する「高額療養費制度」や、年間の医療費が10万円を超えた場合に税金が還付される「医療費控除」の対象にも、基本的にはなりません。一方、「円形脱毛症」は、免疫系の異常によって起こる「皮膚疾患」として明確に位置づけられています。したがって、皮膚科などで行われるその治療は、「保険診療」の対象となります。診察料や検査費用、処方されるステロイド外用薬や抗アレルギー薬、液体窒素療法などの治療費は、原則として3割の自己負担で受けることができます。もちろん、医療費控除の対象にもなります。ただし、円形脱毛症の治療法の中には、保険適用外のものも存在します。例えば、広範囲に及ぶ難治性の円形脱毛症に対して行われる「SADBE療法」や、一部のクリニックで自由診療として行われている「成長因子注入療法(メソセラピー)」などです。また、治療の一環として医療用ウィッグを購入した場合の費用も、基本的には自己負担となります(一部自治体で助成金制度あり)。このように、AGAは「美容」、円形脱毛症は「病気」という、制度上の位置づけの違いが、治療費の負担に大きな差を生んでいます。どちらの疾患かによって、準備すべき費用感が全く異なることを、念頭に置いておく必要があります。
AGAと円形脱毛症、治療費と保険適用の違い