「自毛植毛」と聞くと、後頭部の皮膚をメスで帯状に切り取り、そこから毛根を株分けして植えるという、痛々しく大掛かりな手術(FUT法)をイメージする方がまだ多いかもしれません。しかし、植毛の技術はここ十年で飛躍的な進化を遂げています。メスを使わずに毛根を一つずつくり抜くFUE法が主流となり、さらに現在では、その作業をロボットが行う時代に突入しています。「ARTAS(アルタス)」などの植毛ロボットの登場により、自毛植毛はより精密で、より身体への負担が少ない治療へと変貌を遂げました。最新のロボット植毛の最大の特徴は、AI(人工知能)による高精度なドナー採取です。後頭部の髪の中から、移植に最適で元気な毛根(グラフト)を瞬時に見分け、正確な角度と深さでパンチ(くり抜き)を行います。人間の医師が手作業で行う場合、どうしても長時間の集中力維持が難しく、手ブレや疲労による毛根の切断(ロス)が発生するリスクがありました。せっかく採取しても、毛根が傷ついていれば定着しません。しかし、ロボットは疲れることなく、ミクロン単位の正確さで数千株の採取をスピーディーに行い続けます。これにより、採取した毛根の生存率(生着率)が格段に向上しました。また、患者さんにとってもメリットは絶大です。メスを使わないため、後頭部に横一文字の傷跡が残ることがありません。点状の小さな傷跡は残りますが、髪が伸びればほとんど目立たなくなります。出血や術後の痛み、腫れも大幅に抑えられ、ダウンタイムが短縮されました。仕事の休みを長期間取る必要がなく、週末に手術を受けて月曜から出社することも現実的になっています。さらに、植え込みのデザインにおいても技術革新が進んでいます。生え際のラインを作る際、自然な産毛の流れや密度を計算し、一本毛と複数本毛を使い分けることで、「いかにも植毛しました」という不自然さを排除し、まるで最初から生えていたかのようなナチュラルな仕上がりを実現しています。これも、採取されるドナーの状態が良いからこそ可能になる芸術的な作業です。もちろん、ロボットですべてが完結するわけではありません。最終的なスリット(植え込む穴)の作成や植え込み作業は、熟練した医師や看護師の技術に委ねられる部分も多く、ロボットと人間のハイブリッドな技術力が求められます。費用は手作業の植毛に比べて高額になる傾向がありますが、「一生モノの髪」を手に入れるための投資として選ぶ人は増え続けています。かつては「最終手段」だった植毛が、技術の進歩によって「現実的で前向きな選択肢」へと変わりつつあります。自分の髪が再び生え揃う喜びを、最新テクノロジーが支えているのです。
ロボット技術の導入で進化を遂げた自毛植毛の世界