ストレスは「万病の元」と言われますが、脱毛症との関わりにおいても、非常に重要な役割を果たします。しかし、AGAと円形脱毛症では、ストレスが病気の発症や進行に与える影響の「関与の度合い」と「メカニズム」が異なります。この違いを理解することは、それぞれの疾患への正しい向き合い方に繋がります。まず、「円形脱毛症」において、ストレスは発症の「引き金(誘因)」として、非常に強く関与していると考えられています。仕事や家庭での大きな精神的ショック、継続的なプレッシャー、あるいは過労や睡眠不足といった肉体的ストレスが、免疫システムのバランスを崩し、自己免疫反応のスイッチを入れてしまうことがあるのです。もちろん、ストレスがなくても発症する人はいますし、アトピー素因などの遺伝的な要素も関わっていますが、臨床現場では、発症前に何らかのストレスイベントを経験している患者さんが非常に多いのが実情です。ストレスが、免疫の誤作動を誘発する、直接的なきっかけの一つとなっている可能性が高いのです。一方、「AGA(男性型脱毛症)」において、ストレスは「直接的な原因」ではありません。AGAの根本原因は、あくまで遺伝的素因と男性ホルモンDHTの作用です。ストレスが全くない生活を送っていても、AGAの遺伝子を持つ人は、いずれ発症する可能性が高いです。では、AGAとストレスは無関係かというと、そうではありません。ストレスは、AGAの進行を著しく加速させる、強力な「悪化因子」として作用します。強いストレスは、自律神経のバランスを乱し、血管を収縮させて頭皮の血行を悪化させます。これにより、毛根への栄養供給が滞り、AGAによって弱っている髪の毛の成長を、さらに妨げてしまうのです。また、ストレスはホルモンバランスにも影響を及ぼし、男性ホルモンの分泌を促して、間接的にDHTの生成を助長する可能性も指摘されています。つまり、円形脱毛症にとってストレスが「放火犯(スイッチを入れる役割)」に近いとすれば、AGAにとってのストレスは「火に油を注ぐ役割」と言えるでしょう。どちらの脱毛症にとっても、ストレス管理が重要であることに変わりはありません。しかし、円形脱毛症ではストレスケアが治療の根幹に関わることもあるのに対し、AGAでは、あくまで医薬品による根本治療を支える「補助療法」という位置づけになります。