ビオチンは水溶性ビタミンであるため、体内で過剰になっても尿として排出されやすく、副作用のリスクは極めて低い安全な栄養素として知られています。日本の厚生労働省が定める「日本人の食事摂取基準」においても、ビオチンの耐容上限量(健康障害のリスクがないとみなされる習慣的な摂取量の上限)は設定されていません。このため、多くの方が安心してサプリメントなどを利用していることでしょう。しかし、安全性が高いからといって、無制限に摂取して良いというわけではありません。特に注意が必要なのが、サプリメントなどによる極端な大量摂取が、特定の臨床検査の結果に影響を与えてしまう可能性があるという点です。近年、米国食品医薬品局(FDA)などが警告を発している事例として、高用量のビオチン摂取が、甲状腺機能や心疾患の診断に用いられる血液検査の結果を、偽って高く、あるいは低く見せてしまうという報告があります。例えば、心筋梗塞の診断に重要なトロポニンという検査値が、実際よりも低く出てしまい、診断の遅れに繋がったケースも指摘されています。これは、ビオチンが検査キットの反応系に干渉してしまうために起こる現象です。もちろん、これは一日あたり数万マイクログラムといった、通常のサプリメントの目安量を大幅に超えるような量を摂取した場合のリスクですが、知っておくべき重要な情報です。健康診断や病院での検査を受ける前には、高用量のビオチンサプリメントを摂取している場合は、念のため数日前から摂取を中止するか、必ず医師にその旨を申告することが賢明です。ビオチンの効果を享受するためにも、こうした潜在的なリスクを理解し、節度ある適切な摂取を心がけることが大切なのです。