三十代半ばを過ぎた頃からでしょうか、私が自分の髪の異変に気づき始めたのは。最初は「季節の変わり目だから抜け毛が多いのかな」くらいに軽く考えていました。しかし、秋が過ぎ冬になっても、枕元の抜け毛は減るどころか増える一方でした。ある日、エレベーターの鏡で自分の頭頂部が照明に照らされているのを見たとき、地肌が透けて見えている事実に愕然とし、心臓が早鐘を打ったのを今でも鮮明に覚えています。「私がハゲるなんて嘘でしょ?」と認めたくない気持ちと、「このまま全部なくなってしまったらどうしよう」という恐怖がない交ぜになり、誰にも相談できずに一人で悩み続ける日々が始まりました。ネットで検索しては、高価なシャンプーや育毛剤を試しました。口コミで評判の良いものを次々と買い漁りましたが、目に見える効果はなく、焦りは募るばかりでした。美容院に行くのも億劫になりました。担当の美容師さんに薄毛を指摘されるのが怖かったからです。「髪が薄くなったのでボリュームが出るように切ってください」という一言が、どうしても言えませんでした。帽子をかぶって外出することが増え、風の強い日は外に出るのを避けるようになりました。髪の悩みが、いつの間にか私の生活のすべてを支配するようになっていたのです。皮膚科に行くという選択肢は頭にありましたが、実行に移すまでには半年以上の時間がかかりました。「皮膚科に行って『薄毛ですね』と診断されるのが怖い」「待合室で知り合いに会ったらどうしよう」「若い女性が薄毛で受診なんて笑われるんじゃないか」そんな自意識過剰な羞恥心が、私の足を重くさせていました。しかし、ある朝、洗面所で大量の抜け毛を見て、ついに限界を感じました。「このまま悩み続けてメンタルを病むくらいなら、恥をかいてでもプロに頼ろう」と、ようやく決心がついたのです。震える手で予約したのは、女性医師がいる地元の皮膚科クリニックでした。初診の日、待合室の隅で小さくなって名前が呼ばれるのを待ちました。診察室に入ると、先生は私の頭皮をマイクロスコープで丁寧に診察し、生活習慣やストレスについて優しく聞いてくれました。「笑われるんじゃないか」という不安は杞憂に終わりました。先生は「最近は同じ悩みで来る女性の方がとても多いんですよ。一人で悩まなくて大丈夫です」と言ってくれました。その言葉を聞いた瞬間、張り詰めていた糸が切れ、診察室で少し泣いてしまいました。診断の結果は、ストレスとホルモンバランスの乱れによるびまん性脱毛症でした。治療方針の説明を受け、内服薬と外用薬を処方してもらい、クリニックを出たときの足取りは、来る時よりもずっと軽くなっていました。まだ髪が生えたわけでもないのに、原因がわかり、対策が見えただけで、こんなにも心が救われるものなのかと驚きました。もし今、私と同じように一人で悩み、受診をためらっている女性がいたら、私は声を大にして伝えたいです。皮膚科の先生たちは、髪の悩みに真摯に向き合ってくれます。恥ずかしがる必要は全くありません。その一歩を踏み出すことが、不安な日々から抜け出すための最大の特効薬になるはずです。